今回紹介する論文は、
“Exercise Barriers and Adherence to Recommendations in Patients With Cancer.”
がん患者が推奨されている運動の遵守率が低く、3人に1人しか達成できていない
といったことを報告している論文です。
ゆた
理学療法士
2012年 理学療法士免許を取得
2018年 医学博士号を取得
現在は、大学病院で理学療法士として勤務
がん専門領域でリハビリテーションを行っています
がん患者に対する運動の効果
一般的に運動は、健康に対して多くの利益をもたらします。
以前までは、がん患者は運動を避け、激しい活動を行わないように指導されていました1)が、
現在、米国スポーツ医学会(American College of Sports Medicine: ACSM)では、
がん患者の定期的な運動は安全であり、以下のような健康に有益な効果をもたらすことが報告されています2)。
1. 身体機能の維持と改善3)
運動は、筋力と柔軟性を維持、改善するのに役立ちます。
また、筋力トレーニングは、骨格筋量を増加させ悪液質やサルコペニアの予防につながるとされています。
これにより、がん患者は長期間にわたって身体機能を保ち、日常生活の質を維持することができます。
2. 精神的健康の改善4,5)
がん患者は、診断や治療によって多くの精神的ストレスを抱えます。
運動はストレス、うつ病、不安を軽減し、精神的な健康を改善する効果があります。
運動によって分泌されるエンドルフィンは、気分を向上させ、ストレスを和らげる働きがあります。
3. 生活の質の向上4,5)
運動は、体力を向上させ、日常生活の活動を容易にし、がん患者の生活の質が向上します。
たとえば、買い物や家事などの日常的な活動が楽になり、自立した生活を維持することが可能になります。
4. 治療に伴う副作用の軽減4,5)
がん治療は多くの場合、副作用を伴います。
運動は、これらの副作用、とくに疲労や痛みの軽減に効果があります。
定期的な運動は、体の強さと耐久力を高め、治療の副作用を和らげることができます。
5. 心血管疾患と糖尿病のリスク低減
運動は、心血管疾患や糖尿病のリスクを低減します。
これらの病気は、がん患者にも共通して発生しやすいため、運動による予防効果は非常に重要です。
6. がん再発リスクの低減
運動は、がんの再発リスクを低減することが示されています。
たとえば、乳がんや大腸がんの患者では、運動を行うことでがんの再発リスクが低下することが確認されています。
がん患者の推奨されている運動
米国スポーツ医学会(ACSM)2)と米国がん協会(American Cancer Society: ACS)6)は、
がんサバイバーに対して、週150分の中強度の有酸素運動と週2~3回の筋力トレーニングを組み合わせた運動を推奨するガイドラインを発表しています。
研究の目的
この研究は、
がん患者が推奨されている運動(週150分の中強度有酸素運動と週2~3回の筋力トレーニング)をどの程度行っているか、
そして、それに対する障壁を明らかにすることを目的に実施された研究です。
対象者
- 研究対象者は、テキサス大学アンダーソンがんセンターの18歳以上のがん患者200人
- 半数の人が転移性がん(107人、54%)であり、また、多くが進行期(がんステージ:Ⅲ〜Ⅳ)のがん(139人、70%)を持っており、さらに積極的な治療(137人、69%)を受けていました
- がんの診断後に医師から運動の効果について指導を受けた人は、171人(86%)
- 全対象者の平均運動時間は、129.5分 / 週
表1:対象者の特徴(論文内の表1から抜粋、一部改変)
特性 | 参加者(200人) |
---|---|
性別 | |
男性 | 90人(45%) |
女性 | 110人(55%) |
がんの種類 | |
消化器がん | 39人(20%) |
乳がん | 28人(14%) |
頭頸部がん | 26人(13%) |
その他 | 107人(54%) |
がんのステージ | |
0 〜 Ⅱ | 39人(20%) |
Ⅲ | 32人(16%) |
Ⅳ | 107人(54%) |
その他(白血病) | 22人(11%) |
治療状況 | |
治療中 | 137人(69%) |
経過観察 | 45人(23%) |
がんの治療中の方が137人(69%)いるので、
一般的に言う“がんサバイバー”とは少し属性が異なると思います。
主な結果
- 運動遵守率:
がん患者の34%(68/200)しか、推奨されている運動を実施できていないという結果でした。 - 主な障壁:
運動に対する興味、運動を継続する自制心の欠如、がんによる痛みや疲労の症状が主な障壁として挙げられました。 - 運動遵守率と障壁の数:
上記の障壁を認める数が多ければ多いほど、推奨されている運動の遵守率が低くなる結果であった。 - 性別と運動時間:
女性は、運動時間が少ない傾向がありました。 - 理学療法士の役割:
がんの治療中、理学療法士に運動指導を受けた人は、運動時間が多い結果でした。 - 運動と健康感の関係:
運動時間が少ない参加者は、健康感が低いと報告しました。
理学療法士が関わると、
運動時間が多くなる結果には励まされますね!
表2:運動推奨遵守と障壁の関係(論文内の表3から抜粋、一部改変)
遵守者 (68人) | 非遵守者 (132人) | P値 | |
運動への平均障壁数 | 2.44個 | 4.15個 | < .0001 |
興味の欠如 | 6人 | 35人 | 0.003 |
自己規律の欠如 | 10人 | 48人 | 0.001 |
痛みの症状 | 20人 | 65人 | 0.007 |
疲労の症状 | 21人 | 68人 | 0.005 |
結論と今後の課題
- この研究から得られた結論は、
米国スポーツ医学会(ACSM)と米国がん協会(ACS)が推奨するがんサバイバーの運動遵守率が低かったということです。 - その要因は、
運動に対するモチベーションの欠如やがんの症状である疼痛や疲労にありました。 - 今後の課題として、
運動に対するモチベーションを高め、がんの症状を緩和させて運動量を増やしていく働きかけが必要になってくるとおもいます。
運動が行えない要因に対して、
理学療法士が携われることがあるので
我々の働きかけや、指導が大事になってきますね!
参考文献
- World Health Organization: Physical Activity. https://www.who.int/health-topics/physical-activity, 2018.
- Schmitz KH, Campbell AM, Stuiver MM, et al: Exercise is medicine in oncology: Engaging clinicians to help patients move through cancer. CA Cancer J Clin 69:468-484, 2019.
- Fearon KC, Glass DJ, Guttridge DC: Cancer cachexia: Mediators, signaling, and metabolic pathways. Cell Metab 16:153-166, 2012.
- Mock V, Dow KH, Meares CJ, et al: Effects of exercise on fatigue, physical functioning, and emotional distress during radiation therapy for breast cancer. Oncol Nurs Forum 24:991-1000, 1997.
- Mock V, Pickett M, Ropka ME, et al: Fatigue and quality of life outcomes of exercise during cancer treatment. Cancer Pract 9:119-127, 2001.
- American Cancer Society: ACS Guidelines for Nutrition and Physical Activity. https://www.cancer.org/healthy/eat-healthy-get-active/acs-guidelines-nutrition-physical-activity-cancer-prevention/guidelines.html, 2012.
今回、紹介した論文
● タイトル:Exercise Barriers and Adherence to Recommendations in Patients With Cancer.
● 著者:Ng AH, Ngo-Huang A, Vidal M, Reyes-Garcia A, Liu DD, Williams JL, Fu JB, Yadav R, Bruera E.
● ジャーナル:JCO Oncol Pract
● 発行年:2021
● PMID:33739853
ゆた
理学療法士
2012年 理学療法士免許を取得
2018年 医学博士号を取得
現在は、大学病院で理学療法士として勤務
がん専門領域でリハビリテーションを行っています
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