今回紹介する論文は、
“Preoperative 6-minute walk distance accurately predicts postoperative complications after operations for hepato-pancreato-biliary cancer.”
手術前の6分間歩行距離が、手術後の合併症リスクを高め、そのことで入院期間を長くさせて、はたまた1年後の生存率を低下させてしまう
といったことを報告している論文です。
ゆた
理学療法士
2012年 理学療法士免許を取得
2018年 医学博士号を取得
現在は、大学病院で理学療法士として勤務
がん専門領域でリハビリテーションを行っています
6分間歩行距離(6MWD)とは?
6MWDは、6分間でどれだけの距離を歩けるかを測定するテストです。
このテストは、心肺機能や運動耐容能(体力)を評価するために使用されます。
研究の目的
この研究は、手術前の6MWDが肝臓、膵臓、胆のうならびに胆管がん手術後の主要な合併症(重度の合併症)を予測できるかどうかを調べることを目的に研究されたものです。
方法
日本の肝臓、膵臓、胆のうならびに胆管がん患者81人が対象となり、手術1週間前に6MWDを計測しました。
また、手術後の合併症の重症度(Clavien-Dindo分類)に基づいて患者を2つのグループ(軽度および重度の合併症)に分類し、データを分析しています。
Clavien-Dindo分類とは?
Clavien-Dindo分類は、手術後の合併症を5つのグレードに分ける評価です。
グレード | 重症度 | 特徴 | 例 | 治療 |
---|---|---|---|---|
1 | 軽度の合併症 | 特別な治療を必要としない軽度の合併症 | 軽い発熱、軽度の傷感染 | 経過観察、 簡単な処置 |
2 | 中等度の合併症 | 薬物治療が必要な合併症 | 感染症に対する抗生物質、貧血に対する輸血 | 薬物療法、 輸血 |
3 | 重度の合併症 (手術や介入が必要) | |||
3a | 局所麻酔下での手術が必要な合併症 | 軽度の出血に対する止血手術 | 手術 | |
3b | 全身麻酔下での手術手術が必要な合併症 | 重度の感染に対する再手術 | 手術 | |
4 | 生命に危険を及ぼす合併症 | |||
4a | 単一の臓器不全 | 腎不全 | ICU治療 | |
4b | 多臓器不全 | 腎不全と心不全 | ICU治療 | |
5 | 死亡 | – | – |
グレード1:軽度の合併症
- 特徴:特別な治療を必要としない軽度の合併症
- 例:軽い発熱、軽度の傷感染
- 治療:経過観察や簡単な処置(例:傷の消毒)
グレード2:中等度の合併症
- 特徴:薬物治療が必要な合併症
- 例:感染症に対する抗生物質の投与、貧血に対する輸血
- 治療:薬物療法や輸血
グレード3:重度の合併症(手術や介入が必要)
- グレード3a:局所麻酔下での手術や介入が必要
- 例:軽度の出血に対する止血手術
- グレード3b:全身麻酔下での手術が必要
- 例:重度の感染に対する再手術
グレード4:生命に危険を及ぼす合併症
- グレード4a:単一の臓器不全(例:腎不全)
- グレード4b:多臓器不全(例:腎不全と心不全)
- 治療:集中治療室(ICU)での高度な治療
グレード5:死亡
- 特徴:術後合併症により患者が死亡
結果
- 低い6MWD(400m未満)の患者は、重度の手術後合併症を発症するリスクが高いことが示されています。
- 6MWDが400m以上の患者に比べて、低い6MWD(400m未満)の患者は、手術後の入院期間が長く、1年生存率も低いことが示されています。
表1:手術後合併症の重症度と患者の特徴(論文内の表1から抜粋)
手術後合併症が軽度の人たち (Clavien-Dindo < 3) | 手術後合併症が重度の人たち (Clavien-Dindo ≥ 3) | P値 | |
---|---|---|---|
男性 | 31人(64%) | 21人(63%) | 0.930 |
年齢 | 67(38 – 82)歳 | 69(45 – 88)歳 | 0.577 |
BMI | 21.4(16.4 – 37.8)kg/m2 | 20.9(15.2 – 24.9)kg/m2 | 0.093 |
6MWD | 492(372 – 620)m | 465(276 – 636)m | 0.041 |
手術時間 | 565(339 – 900)分 | 628(322 – 1,012)分 | 0.087 |
手術中出血量 | 1,140(273 – 3,376)ml | 1,323(209 – 12,428)ml | 0.141 |
手術後入院期間 | 23(10 – 72)日 | 43(19 – 121)日 | <0.001 |
この表からは、性別、年齢かかわらず、手術前の体力(6MWD)が低いと、手術後の合併症になりやすく、そのことで手術後の入院期間が長くなってしまう(最大で121日も!?)可能性があるってことですね。
いかに手術前から体力をつけておくことが大事かがわかりますね
表2:手術前6MWDと患者の特徴(論文内の表4から抜粋)
手術前6MWDが高い人たち (6MWD ≧ 400m) | 手術前6MWDが低い人たち (6MWD < 400m) | P値 | |
---|---|---|---|
男性 | 49人(70%) | 3人(27%) | 0.006 |
年齢 | 66(38 – 82)歳 | 76(65 – 88)歳 | <0.001 |
BMI | 21.1(16.0 – 37.8)kg/m2 | 21.1(15.2 – 30.4)kg/m2 | 0.890 |
Clavien-Dindo ≧ 3 | 24人(34%) | 9人(81%) | 0.003 |
手術時間 | 572(322 – 1,012)分 | 580(373 – 677)分 | 0.984 |
手術中出血量 | 1,146(273 – 12,428)ml | 812(209 – 2,394)ml | 0.416 |
手術後入院期間 | 28(10 – 121)日 | 45(17 – 92)日 | 0.004 |
この表から、手術前の体力(6MWD)には、性別と年齢が影響している可能性があるってことがわかりますね。
女性よりも男性、高齢者よりも若年者の方が、体力がある(6MWDが高い)のは想像つくので、みなが一概に6MWD:400m以上を目指す必要があるわけではないかもしれませんね。
図1:6分間歩行距離と1年生存率の関係(論文内の図1から抜粋)
このグラフからは、12ヶ月での生存率が大きく異なるけど、24ヶ月ではあまり変わらないことがわかりますね。
手術前の体力(6MWD)が違うだけで、手術後1年間の生存率が30%程度も違うのには驚きですね!
臨床での応用
6MWDは簡便で安全な方法であり、手術前の評価として使用することで、手術後の重度の合併症のリスクが高い患者を特定するのに役立ちます。
手術前の6MWD:400mが指標になることを覚えておく必要がありますね。
これにより、患者の手術前の準備や手術後の管理をより効果的に計画することが可能となります。
今回、紹介した論文
● タイトル:Preoperative 6-minute walk distance accurately predicts postoperative complications after operations for hepato-pancreato-biliary cancer.
● 著者:Hayashi K, Yokoyama Y, Nakajima H, Nagino M, Inoue T, Nagaya M, Hattori K, Kadono I, Ito S, Nishida Y.
● ジャーナル:Surgery
● 発行年:2017
● PMID:27687623
ゆた
理学療法士
2012年 理学療法士免許を取得
2018年 医学博士号を取得
現在は、大学病院で理学療法士として勤務
がん専門領域でリハビリテーションを行っています
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