今回紹介する論文は、
“Prehabilitation versus Rehabilitation: A Randomized Control Trial in Patients Undergoing Colorectal Resection for Cancer”
大腸がんの手術を受ける77人で、運動・栄養・心のケアを組み合わせたプログラムを手術の約4週間前から始めると、術後に始めるよりも、術後8週の6分間歩行距離がよかった
といったことを報告している論文です。

ゆた
理学療法士・博士(医学)
大学病院で、がん専門領域のリハビリテーションを行っています
がんリハビリテーション(がんリハ)について、一緒に学んでいきましょう
この記事でわかること
- 同じプログラムを「手術前から」始めるか「手術後から」始めるかを比べた、カナダのランダム化比較試験
- プレハビリテーション群は、手術までの約3〜4週間で6分間歩行距離が平均25 m伸び、術後8週でも手術前の値を上回っていた
- 一方で、術後の合併症や入院期間には差がなかった。日本のガイドライン第2版[1]でも引用されている研究
▶ 一般の方向けのやさしい解説はこちら:手術前から手術に向けたリハビリを行うと手術後の体力改善につながる?
プレハビリテーションとは?
プレハビリテーションは、英語の prehabilitation で、手術の前に体の機能を高めておく取り組みのことです。
手術という大きなストレスに耐え、術後の回復を早めることを目的にしています。
この論文では、手術の前の期間を使って行うものをプレハビリテーション、同じ内容を手術のあとから始めるものをリハビリテーションと呼んで比べています。
最近のプレハビリテーションでは、運動だけでなく、栄養や心理的な支援を組み合わせることが多くなっています。
この研究も、運動・栄養・不安を減らす取り組みの3本柱で行う「トリモーダル」と呼ばれるプログラムを使っています。
6分間歩行距離とは?
6分間歩行距離は、6分間でどれだけの距離を歩けるかを測るテストです。
このテストは、運動耐容能、つまり日常生活の動きに近い体力を評価するために考えられました[2]。
この研究では、15 mの廊下を往復し、最後に疲れるくらいのペースで6分間歩いてもらっています。
途中で休んでもよく、休んだ時間も6分に含めます。
そして、20 m以上の変化を「臨床的に意味のある変化」としているのがポイントです。
論文では、20 mは、地域で暮らす高齢者でのこのテストの測定誤差にあたる値と説明されています。
手術前の6分間歩行距離が短い人ほど術後の合併症が多いことは、以前の記事でも紹介しました。
Clavien-Dindo分類とは?
Clavien-Dindo分類は、手術後の合併症を、治療にどんな処置が必要だったかで5つのグレードに分ける評価です[3]。
この研究では、術後30日の合併症の重さをこの分類で比べています。
表:Clavien-Dindo分類(Dindo D, et al. 2004 の表1・表2をもとに作成、一部抜粋)[3]
| グレード | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| I | 薬や手術などの治療を必要としない 吐き気止め・解熱薬・鎮痛薬・利尿薬・電解質の補正・理学療法は使ってよい | 理学療法で対応した無気肺 ベッドサイドで傷を開いて処置した創感染 |
| II | グレードIで使える薬以外の薬物治療が必要 輸血・中心静脈栄養も含む | 抗菌薬で治療した肺炎・尿路感染 |
| III | 手術・内視鏡・放射線を使った処置が必要 IIIa は全身麻酔なし、IIIb は全身麻酔あり | 縫合不全に対する再開腹手術:IIIb |
| IV | 集中治療室などでの管理が必要な、命に関わる合併症 IVa は1つの臓器、IVb は複数の臓器の機能不全 | 透析が必要な腎不全:IVa |
| V | 患者の死亡 | – |
ERASとは?
ERAS は Enhanced Recovery After Surgery の略です。
手術の前・手術中・手術のあとのケアを、根拠のある複数の項目の組み合わせとして決めておき、手術からの回復を早めることをめざす管理の方法です。
日本のガイドライン第2版では、消化器がんの手術でのこうした取り組みを、術前の教育、腸の前処置をしない、体への負担が少ない手術、ドレーンをなるべく入れない、術後なるべく早く食事や起き上がり・歩行を始める、といった一連の介入として説明しています[1](p.35)。
術後早くから起き上がって歩く「早期リハビリテーション」は、この一連の介入の一部にあたります[1](p.35)。
この研究では、大腸手術のケアについての専門家の合意にもとづいた ERAS の管理を、両群の全員が受けています。
研究の背景
この論文では、大腸がんの手術のあとは、合併症がなくても体の機能が20〜40%落ちるとされ、高齢で持病のある人では、数か月たっても元に戻らないことがあると述べています。
また、手術前の体力が低いと、死亡のリスクが上がり、回復も遅れることが報告されているとしています。
合併症についても、手術前に心身の予備力が落ちたフレイルの状態にある65歳以上の人では、大腸の手術のあとに合併症が起きやすく、フレイルでない人の21%に対し、フレイルの人では58%に合併症が起きていたという報告があります[4]。
回復を助ける取り組みは、これまで術後のリハビリテーションが中心でした。
しかし術後は、疲れや傷の痛み、追加の治療への不安があり、運動や食事の習慣を変えにくい時期です。
手術の前は体の状態が比較的よく、手術までの待ち時間もあるため、介入にはむしろ適した時期かもしれません。
同じグループは以前、過去の患者と比べる観察研究で、運動・栄養・心のケアを組み合わせた4週間のプログラムを手術前に行うと、術後の回復が早まったことを報告していました。
ただ、ランダム化がされておらず、手術前の歩行能力も測っていなかったため、ランダム化比較試験で確かめることになりました。
研究の目的
運動・栄養・心のケアを組み合わせた同じプログラムを、手術の約4週間前から始める場合と、手術の直後から始める場合で、手術前と術後の6分間歩行距離の変化を比べることです。
方法
- 国・施設:カナダ・モントリオールの大学関連病院1施設
- 研究デザイン:ランダム化比較試験
- 測定者は、どちらの群かを知らない状態で評価しています
- 患者本人は、自分の群を知っています
- 対象:2011年11月〜2013年3月に、遠隔転移のない大腸がんで、根治をめざす予定手術を受ける成人
- 106人に声をかけ、89人を割り付けました
- 手術をしなかった人、緊急手術になった人、ほかの病院で手術した人などの12人を除き、77人を解析しています
- 2つの群
- プレハビリテーション群・38人:手術の約4週間前からプログラムを始め、術後8週まで続ける
- リハビリテーション群・39人:同じプログラムを手術の直後から始め、術後8週まで続ける
- 周術期の管理:全員がERAS の管理を受けています
- 手術はほとんどが腹腔鏡手術でした
表1:プログラムの内容(論文の本文をもとに作成、一部抜粋)
| 柱 | 担当 | 内容 |
|---|---|---|
| 運動 | 運動の専門職 | 自宅で週3日以上、1回最大50分 有酸素運動と筋力トレーニングを交互に行う ウォームアップ5分、有酸素運動20分、ゴムバンドでの筋力トレーニング20分、クールダウン5分 有酸素運動は心拍予備能の40%から 筋トレは主な筋肉8種目を、8〜12回できる強さで |
| 栄養 | 管理栄養士 | 3日分の食事記録をもとに個別に指導 たんぱく質は体重1 kgあたり1.2 gを目安に 不足分をホエイたんぱくで補い、運動後1時間以内に飲む |
| 心のケア | 心理士 | 最大60分の面談で、イメージを使ったリラクセーションと呼吸法を練習 CDを使って、自宅で週2〜3回くり返す |
| 続けるための工夫 | 全員 | 写真入りの冊子と日誌 毎週の電話での確認 入院中の訪問 |
- 主な評価項目:術後8週の6分間歩行距離の、ベースラインからの変化
- ベースライン・手術直前・術後4週・術後8週に測っています
- そのほかの評価項目:自己申告の身体活動量、健康関連の生活の質を測る SF-36、不安と抑うつを測る HADS、術後30日の合併症・入院期間・再入院、プログラムの実施率
表2:対象者の主な特徴(論文の表1のデータをもとに作成、一部抜粋)
| 項目 | プレハビリテーション群・38人 | リハビリテーション群・39人 |
|---|---|---|
| 年齢 | 平均65.7歳 | 平均66.0歳 |
| 男性 | 21人・55% | 27人・69% |
| がんステージⅢ | 17人・45% | 13人・33% |
| 直腸の切除 | 14人・37% | 16人・41% |
| 腹腔鏡手術 | 37人・97% | 35人・90% |
| 6分間歩行距離 | 平均421 m | 平均425 m |
| 6分間歩行距離が400 m未満 | 13人・34% | 16人・41% |

年齢が65歳前後と、比較的若い集団の研究です。
それでも、6分間歩行距離が400 m未満の人が3〜4割もいるのは多い印象ですね。
結果
- プレハビリテーションの期間:ベースラインの測定から手術までは、中央値で24.5日でした
- 手術前の変化:手術を待つ間に、6分間歩行距離はプレハビリテーション群で平均25.2 m伸び、リハビリテーション群では平均16.4 m短くなりました
- 両群の差は41.7 m、95%信頼区間は19.8〜63.5 mでした
- 20 m以上伸びた人は、プレハビリテーション群53%、リハビリテーション群15%でした
- 術後4週:両群とも、約半数の人がベースラインより20 m以上短いままでした
- 術後8週:プレハビリテーション群はベースラインより平均23.4 m長く、リハビリテーション群は平均21.8 m短いままでした
- 両群の差は45.2 m、95%信頼区間は13.9〜77.0 mでした
- ベースライン以上に戻っていた人は、84%と62%でした
表3:6分間歩行距離のベースラインからの変化(論文の表2のデータをもとに作成、一部抜粋)
| 時期 | 項目 | プレハビリテーション群 | リハビリテーション群 | 調整p値 |
|---|---|---|---|---|
| 手術直前 | 平均の変化 | +25.2 m | −16.4 m | <0.001 |
| 20 mを超えて改善した人 | 20人・53% | 6人・15% | 0.006 | |
| 20 mを超えて低下した人 | 8人・21% | 14人・36% | ||
| 術後8週 | 平均の変化 | +23.4 m | −21.8 m | 0.020 |
| 20 mを超えて改善した人 | 22人・58% | 10人・26% | 0.022 | |
| 20 mを超えて低下した人 | 6人・16% | 15人・38% |

図1:ベースラインと比べた6分間歩行距離の変化の内訳(論文の表2のデータをもとに作成)
上がプレハビリテーション群、下がリハビリテーション群で、それぞれ手術直前と術後8週を並べています。
点線は、手術直前から術後8週への割合の移り変わりを見やすくするための補助線です。

手術前に貯めた「25 m」が、術後に落ちる分をちょうど補った形です。
術後8週の時点で、スタート地点より上にいるか下にいるかが分かれたのが印象的ですね。
- 合併症と入院期間:はっきりした差はありませんでした
表4:術後の経過(論文の表4のデータをもとに作成、一部抜粋)
| 項目 | プレハビリテーション群 | リハビリテーション群 | p値 |
|---|---|---|---|
| 30日以内に合併症あり | 12人・32% | 17人・44% | 0.277 |
| グレードIVの合併症 | 0人 | 2人・5% | |
| 入院日数 | 中央値4日 | 中央値4日 | 0.812 |
| 30日以内の再入院 | 6人・15% | 5人・13% | 0.780 |
- 生活の質と気分:SF-36 と HADS の変化には、両群で差がありませんでした
- プログラムの実施率:手術前は78%でした。術後0〜4週はプレハビリテーション群53%、リハビリテーション群31%で、プレハビリテーション群のほうが術後もよく続けていました
結論と研究の限界
結論:著者らは、手術前から始めるプログラムで術後の運動耐容能に意味のある変化が得られ、同じプログラムを術後に始めても同じ効果は得られなかったと結論づけています。
著者らの考え
- 手術前に平均25.2 m伸びたことが、術後4週までに落ちる分を補う「貯金」になり、元の体力に早く戻れた
- 運動・栄養・心のケアのどれが効いたのか、組み合わせたことによる効果なのかはわからない
- 同じグループの以前の試験では、強い運動を自宅で行うプログラムは実施率が16%と低く、手術待ちの間に3分の1の人が悪化した。そこで運動を中等度にし、栄養と心のケアを加えた
- プレハビリテーション群でも8人・21%は手術前に悪化した。うち5人は実施率が低く、もともと6分間歩行距離が平均500 mと高く、伸びしろが小さかった可能性がある
限界・注意点
- 1施設・77人の小さな試験で、目標の80人にも届いていない
- 合併症や入院期間の差を調べるには人数が足りず、合併症が減るかどうかは、この研究からは言えない
- 患者は自分の群を知っており、プレハビリテーション群は期待や意欲の影響を受けている可能性がある
- リハビリテーション群でも、6人・15%は手術前に自分で強めの運動をしていた
- 生活の質の評価には欠測が多く、統計的な方法で補っている
- ほぼ全員が腹腔鏡手術と ERAS で、入院期間は中央値4日と短い。日本の大腸がん手術の状況とは違いがある
ガイドラインでの位置づけ
日本の「がんのリハビリテーション診療ガイドライン 第2版」[1]では、このテーマを直接扱っています。
- 消化器がんで腹部手術を予定している患者に、術前にリハビリテーション治療、つまり運動療法や呼吸リハビリテーションを行うことを提案(CQ3-01、2C:弱い推奨、エビデンスの確実性 弱、p.28)
- 運動耐容能の改善はエビデンスB、術後合併症の減少・入院期間の短縮はエビデンスC
- この論文は、CQ3-01の根拠の1つとして引用されています(p.28〜29)。運動耐容能の改善と、合併症・入院期間に差がなかったことの両方で取り上げられています
- 術前に1〜4週間行う報告が多いこと、在宅で強い運動を行うプログラムでは続けにくいことにも触れています
- 消化器がん術後の患者に、運動療法を行うことを提案(CQ3-02、2C:弱い推奨、エビデンスの確実性 弱、p.32)
ガイドラインでは、外来での術前リハビリテーションは「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさず、保険診療では行えないため、外来での実施は臨床適応性が低いとも書かれています(p.29)。
この研究のように「自宅で自分で行う」形は、日本で術前の介入を考えるうえでのヒントになります。
※2026年に同ガイドラインの第3版が発行されています。
本記事は第2版の内容にもとづいています。
臨床での応用 —— 明日からの臨床でどう活かすか
手術が決まったら、早めに6分間歩行距離を測る
手術を待つ間に、何もしないと平均16 m短くなっていました。
術前の外来や入院時に測っておくと、術後の回復を比べる基準になります。
20 mを目安に変化を見ると、意味のある変化かどうかを判断しやすくなります。
外来で関われないなら、自宅での運動を「渡す」
この研究の運動は、自宅で週3日以上、ゴムバンドと歩行でできる内容でした。
術前に関われる機会が少しでもあれば、冊子や日誌を使って、中等度の有酸素運動と筋力トレーニングのやり方を具体的に伝えます。
強すぎる運動にしない
同じグループの以前の試験では、強い運動を自宅で行うプログラムは続きませんでした。
「続けられる強さ」から始めて少しずつ上げるのが現実的です。
この研究では、楽に感じるようになったら、または筋トレが15回できるようになったら強度を上げていました。
栄養と心のケアを一緒に考える
運動だけでなく、たんぱく質の摂取や不安への支援を組み合わせていました。
管理栄養士や心理職、看護師と連携し、チームで関わっていきます。
手術前の6分間歩行距離が高い人は、伸びにくいこともある
もともと500 m前後歩ける人は、短い期間で大きく伸びないことがあります。
術前の目標は「伸ばす」だけでなく、「落とさない」ことも含めて考えます。
リスク管理を忘れない
術前補助療法中の人、貧血や心臓の病気がある人、腸閉塞の症状がある人では、運動の強さや中止の基準を主治医と確認してから始めます。
まとめ
- 運動・栄養・心のケアのプログラムを手術の約4週間前から始めると、手術前に6分間歩行距離が平均25 m伸びた
- 術後8週では、ベースライン以上に戻った人が84%と62%で、プレハビリテーション群のほうが多かった
- 合併症や入院期間の差ははっきりせず、1施設・77人の試験である点には注意が必要

「同じ内容でも、始めるタイミングで結果が変わる」ことを示した、プレハビリテーションの代表的な研究です。
手術までの数週間を、体力を落とさず、少しでも高める期間にできるよう関わっていきたいですね!
※本記事は論文の紹介を目的としたもので、個別の治療方針は主治医・担当療法士にご相談ください。
参考文献
- 日本リハビリテーション医学会 がんのリハビリテーション診療ガイドライン改訂委員会, 編. がんのリハビリテーション診療ガイドライン. 第2版. 東京: 金原出版; 2019. Available from: https://www.jarm.or.jp/document/cancer_guideline.pdf
- Guyatt GH, Sullivan MJ, Thompson PJ, Fallen EL, Pugsley SO, Taylor DW, et al. The 6-minute walk: a new measure of exercise capacity in patients with chronic heart failure. Can Med Assoc J. 1985;132(8):919-23. PMID: 3978515
- Dindo D, Demartines N, Clavien PA. Classification of surgical complications: a new proposal with evaluation in a cohort of 6336 patients and results of a survey. Ann Surg. 2004;240(2):205-13. doi: 10.1097/01.sla.0000133083.54934.ae
- Robinson TN, Wu DS, Pointer L, Dunn CL, Cleveland JC Jr, Moss M. Simple frailty score predicts postoperative complications across surgical specialties. Am J Surg. 2013;206(4):544-50. doi: 10.1016/j.amjsurg.2013.03.012
今回、紹介した論文
● タイトル:Prehabilitation versus Rehabilitation: A Randomized Control Trial in Patients Undergoing Colorectal Resection for Cancer
● 著者:Gillis C, Li C, Lee L, Awasthi R, Augustin B, Gamsa A, Liberman AS, Stein B, Charlebois P, Feldman LS, Carli F
● ジャーナル:Anesthesiology
● 発行年:2014(巻121、号5、937-947頁)
● PMID:25076007
● DOI:10.1097/ALN.0000000000000393
● 本記事の表と図は、論文の数値をもとに独自に作成しています

ゆた
理学療法士・博士(医学)
大学病院で、がん専門領域のリハビリテーションを行っています
がんリハビリテーション(がんリハ)について、一緒に学んでいきましょう


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