「手術までの間、何かしておいたほうがいいの?」
大腸がんの手術が決まったとき、そう思う方は少なくありません。
今回は、運動・食事・心のケアを手術の前から始めた場合と、手術のあとから始めた場合を比べたカナダの研究を、やさしく紹介します。
※この記事は研究の紹介です。
ご自身の治療やリハビリについては、必ず主治医・担当の医療スタッフにご相談ください。

ゆた
理学療法士・博士(医学)
大学病院で、がん専門領域のリハビリテーションを行っています
がんリハビリテーション(がんリハ)について、一緒に学んでいきましょう
この記事のポイント
- 運動・食事・心のケアを組み合わせたプログラムを、手術の約4週間前から始める人と、手術のあとから始める人に分けて比べた研究です
- 手術の前から始めた人は、手術までの間に「6分間で歩ける距離(体力)」が平均25 mほど伸びていました
- 手術から2か月後、元の体力まで戻っていた人は、手術の前から始めた人のほうが多くいました。
ただし、合併症や入院日数には、はっきりした差はありませんでした
そもそも「手術の前のリハビリ」とは?
手術の前に体力をつけておく取り組みは、「プレハビリテーション」と呼ばれます。
手術は、体にとって大きな負担です。
山登りの前に体力をつけておくと、下山したあと疲れが残りにくいのと同じように、手術の前に体を整えておくことで、手術のあとの回復を助けようという考え方です。
この研究では、体力を「6分間で歩ける距離」で測りました。
廊下を往復して、最後に疲れるくらいのペースで6分間歩いてもらい、その距離をくらべる方法です。
われわれ理学療法士は、6分間で歩ける距離の変化が「20 m以上」あれば、意味のある変化と考えています[1]。
どんな研究?
- カナダの大学病院1か所で行われた研究です
- 大腸がんの手術を受ける約80人を、くじ引きのような方法で2つのグループに分けました。
平均年齢は66歳くらいです - どちらのグループも、運動・食事・心のケアを組み合わせた同じ内容のプログラムを、手術から2か月後まで自宅で続けました
- 運動:週3日以上、1回50分まで。ウォーキングなどの運動と、ゴムバンドを使った筋トレを交互に行います
- 食事:栄養士が食事の記録を見て助言し、不足しがちなたんぱく質を補う飲みものを、運動のあとに飲みます
- 心のケア:不安をやわらげる呼吸法やリラックスの方法を、心の専門家から教わります
- 違いは、始めるタイミングだけです。
1つのグループは手術の約4週間前から、もう1つのグループは手術のあとから始めました
わかったこと
① 手術の前からリハビリを始めた人は、手術までに歩ける距離が伸びた
手術までの約3〜4週間で、手術の前から始めた人は、6分間で歩ける距離が平均25 mほど伸びました。
手術を待っていただけの人は、平均16 mほど短くなっていました。
はっきり伸びた人は、手術の前から始めた人では2人に1人、待っていた人では7人に1人ほどでした。
② 手術から2か月後、元の体力に戻っていた人が多かった
手術から1か月後は、どちらのグループも約半数の人が、元の距離より20 m以上短いままでした。
手術から2か月後には、元の距離かそれ以上まで戻っていた人が、手術の前から始めた人では10人中8人ほど、手術のあとから始めた人では10人中6人ほどでした。
③ 合併症や入院日数には、はっきりした差はなかった
手術のあとの合併症や入院日数、気持ちの落ち込みや不安の程度には、2つのグループではっきりした差はありませんでした。

手術の前に少し貯めておいた体力が、手術のあとに落ちる分を補ってくれた、というイメージです。
同じ内容でも「始めるタイミング」で違いが出たのが、この研究のおもしろいところですね。
この研究から言えること・言えないこと
言えること
- 手術の前の数週間でも、運動・食事・心のケアを組み合わせると、歩く力が伸びることがある
- 手術の前から始めると、手術から2か月後に元の体力まで戻っている人が多い傾向がある
言えないこと
- 手術の前に運動をすれば、合併症が減る・入院が短くなる、とまでは言えません。
この研究では、はっきりした差はありませんでした - 約80人の、1つの病院での研究です。
もっと大きな研究で確かめる必要があります - 運動・食事・心のケアのどれが役に立ったのかは、わかっていません
- 手術の前から始めた人の中にも、5人に1人ほどは歩ける距離が短くなった人がいました。
誰にでも同じ結果が出るわけではありません - カナダでは、ほとんどの人がおなかに小さな穴をあける手術を受け、入院は4日ほどでした。
日本の病院とは状況が違うところもあります
手術を控えている方・ご家族へ
- 手術までの間にどんな運動をしてよいか、担当の先生やリハビリのスタッフに聞いてみましょう。
持病や治療の状況によって、合う運動は人それぞれです - 食事が思うようにとれない、体重が減っているというときは、栄養の相談ができるか、担当の医療スタッフに聞いてみましょう
- 手術への不安が強いときも、ひとりで抱えこまずに、看護師などのスタッフに話してみてください
- 次のようなときは、無理をせず休み、担当の医療スタッフに相談してください
- 強い痛みがある
- 熱がある
- 息切れやめまい、ふらつきがある
- いつもより強いだるさがある
- おなかの張りや強い腹痛、吐き気がある
まとめ
- 運動・食事・心のケアを手術の約4週間前から始めた人は、手術までに歩ける距離が伸び、手術から2か月後に元の体力まで戻っている人が多い傾向がありました
- ただし、合併症や入院日数がよくなるとまでは言えません
- 手術までの過ごし方は、担当のスタッフと相談しながら、自分に合った方法を見つけていきましょう

手術までの数週間は、不安な気持ちで過ごす方も多い時期です。
できることを少しずつ、担当のスタッフと一緒に考えていけるといいですね。
※この記事は研究の紹介です。
ご自身の治療やリハビリについては、必ず主治医・担当の医療スタッフにご相談ください。
▶ 医療従事者向けの詳しい解説はこちら:大腸がん患者に対するプレハビリテーションは、術後の運動耐容能を改善させるのか?
参考文献
- Gillis C, Li C, Lee L, Awasthi R, Augustin B, Gamsa A, et al. Prehabilitation versus rehabilitation: a randomized control trial in patients undergoing colorectal resection for cancer. Anesthesiology. 2014;121(5):937-47. doi: 10.1097/ALN.0000000000000393
今回、紹介した論文
● タイトル:Prehabilitation versus Rehabilitation: A Randomized Control Trial in Patients Undergoing Colorectal Resection for Cancer
● 著者:Gillis C, et al.
● ジャーナル:Anesthesiology
● 発行年:2014(巻121、号5、937-947頁)
● PMID:25076007
● DOI:10.1097/ALN.0000000000000393

ゆた
理学療法士・博士(医学)
大学病院で、がん専門領域のリハビリテーションを行っています
がんリハビリテーション(がんリハ)について、一緒に学んでいきましょう

コメント