「手術の前に、体力をつけておいたほうがいいって本当?」
大きな手術を控えていると、こんな疑問や不安を持つ方も多いと思います。
今回は、手術の前に歩ける距離が短かった人ほど、手術のあとに重い合併症が起きやすかったという日本の研究を、やさしく紹介します。
※この記事は研究の紹介です。ご自身の治療やリハビリについては、必ず主治医・担当の医療スタッフにご相談ください。

ゆた
理学療法士・博士(医学)
大学病院で、がん専門領域のリハビリテーションを行っています
がんリハビリテーション(がんリハ)について、一緒に学んでいきましょう
この記事のポイント
- 手術の前に「6分間でどれだけ歩けるか」を測りました
- 400 m 未満だった人は、400 m 以上だった人より、手術のあとの重い合併症が多く、入院も長くなっていました
- ただし、歩く距離が短かった人は11人と少なく、年齢が高い人も多かったため、数字は「目安」として受け止めることが大切です
そもそも「6分間歩行」とは?
- 6分間で、自分のペースで歩ける距離を測る検査です
- 特別な機械はいらず、体力(心臓や肺、足の筋肉の力)のおおまかな目安になります
- 400 m は、たとえば学校の運動場のトラック1周くらいの距離です
どんな研究?
- 日本の病院で行われた研究です
- 肝臓・すい臓・胆道(胆汁の通り道)の大きな手術を受けた81人(ほとんどががんの方)が対象です
- 手術の数日前に6分間歩行を測り、手術のあとの経過を調べました
わかったこと
| 400 m 以上歩けた人(70人) | 400 m 未満だった人(11人) | |
|---|---|---|
| 手術のあとに重い合併症が起きた人 | 約3人に1人 | 約5人に4人 |
| 手術のあとの入院日数(真ん中の値) | 約4週間 | 6週間あまり |
| 手術から1年後に生存していた人 | 10人中9人あまり | 10人中6〜7人 |
(Hayashi K, et al. 2017 の数値をもとに作成。数字はわかりやすく丸めています)
- 「重い合併症」とは、もう一度手術や処置が必要になったり、集中治療室での治療が必要になったりするものを指します
- 手術の前の歩く距離が短かった人ほど、手術のあとの経過が大変になりやすい傾向がありました

「6分間歩く」という簡単な検査で、手術のあとの経過の目安がわかるのは、とても心強いですね。
この研究から言えること・言えないこと
言えること
- 手術の前の体力(歩ける距離)は、手術のあとの経過と関係しているかもしれない
言えないこと
- 「手術の前に体力をつければ、合併症が必ず減る」とは、この研究からは言えません。この研究は、体力をつける練習の効果を調べたものではないためです
- 400 m 未満だった人は11人と少なく、年齢が高い人が多いなど、歩く距離以外の違いもありました
- 400 m は「全員が目指すべき数字」ではありません。年齢や体の状態によって、目安は変わります
日本のガイドラインでは、消化器(胃・腸・肝臓・すい臓など)のがんで手術を受ける方に、手術の前からリハビリを行うことが「提案」されています[1]。
手術を控えている方・ご家族へ
- 「手術の前にできる運動はありますか?」と、担当の先生やリハビリのスタッフに聞いてみましょう
- 手術までの期間や体調によって、できることは違います。自己流で無理な運動をするのは避けましょう
- 散歩など、日常の中で体を動かす時間を少し増やすだけでも、相談のきっかけになります
- 次のようなときは、無理をせず運動を休み、担当のスタッフに相談してください
- 強い痛みがある
- 熱がある
- 息切れやめまい、ふらつきがある
- いつもより強いだるさがある
まとめ
- 手術の前に歩ける距離が短かった人ほど、手術のあとに重い合併症が起きやすい傾向がありました
- ただし人数が少なく、「体力をつければ必ず防げる」とまでは言えません
- 手術の前にできることは、担当の医療スタッフと一緒に考えましょう

手術の前の時間は、体を整える大切な準備期間でもあります。不安なことは、ひとりで抱えずに相談してくださいね。
※この記事は研究の紹介です。ご自身の治療やリハビリについては、必ず主治医・担当の医療スタッフにご相談ください。
▶ 医療従事者向けの詳しい解説はこちら:「がん手術前の体力が低いと手術後に悪影響を及ぼす?」
参考文献
- 日本リハビリテーション医学会 がんのリハビリテーション診療ガイドライン改訂委員会, 編. がんのリハビリテーション診療ガイドライン. 第2版. 東京: 金原出版; 2019. Available from: https://www.jarm.or.jp/document/cancer_guideline.pdf
今回、紹介した論文
● タイトル:Preoperative 6-minute walk distance accurately predicts postoperative complications after operations for hepato-pancreato-biliary cancer.
● 著者:Hayashi K, et al.
● ジャーナル:Surgery
● 発行年:2017
● PMID:27687623
● DOI:10.1016/j.surg.2016.08.002
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ゆた
理学療法士・博士(医学)
大学病院で、がん専門領域のリハビリテーションを行っています
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